私がリールを作り始めたのは2016年のことです。
まだまだ駆け出しで、色んな所で凹んで、悩んでを繰り返している日々なのですが、
リールを設計するときにまず考えたのが、結構な値段がするリールが壊れるのが嫌なので
壊れないようにするにはどうしたらいいか?と考えました。
単純に考えれば肉厚を増やすとか、硬い材料にする方向で考えるのですが、リールには適正重量と言うのがありますので、
べらぼうの重いリールを作っても仕方がないのです。
渓流でこけたり、リールを落としたりする事故にどうやって対応するのか?と考えていると、これって自動車と同じじゃないの!
と思ったのでした。
確かに昔の車は丈夫なボディでした。スウェーデンのボルボ社で一番好きな車は240なんですが、当時その車は
「スカンジナビアン フライング レッドブロック」 空飛ぶ赤いレンガと言われたように強靭なボディで壊れない車でした。
そんな壊れない車が出来るとどうなるか? 人が死んでも車は壊れない!となりました。
時は流れ、最近の日本車は衝撃吸収ボディとなったのです。
乗員はもとより歩行者への衝撃を緩和するためエンジンルームやボディを潰れやすくして衝撃を分散、吸収する構造となっています。
これです。求めていたのはこれなのです。
私の作るリールで衝撃を分散、吸収するにはどうしたらよいか?と考えました。
その答えがリールフットなのです。
渓流でこけた場合リールのフレームが岩や地面に接触し、衝撃が分散、吸収されない場合はフレームが曲がり、スプールが変形し、ハンドルが回らない最悪の状況になるのです。
リールのフレームが岩や地面に接触したときに衝撃が分散、吸収させるためにリールフットのピラーを他の部分よりも弱くすることでフレームに加わった衝撃をピラーの変形により分散、吸収させるのです。
Buddyには3本のピラーと2本のリールフットピラーでフレームを支えています。
3本のピラーは最小計が4mmに対して2本のリールフットピラーは最小径3mmにし、リールフットと固定するためのM2のネジを3mmのリールフットピラーの中心部にねじ止めしているのでたのピラーよりも明らかに強度が劣るのです。
劣るという表現は適切ではなく、あえて衝撃吸収部分として採用したのです。
渓流でこけた場合リールのフレームが岩や地面に接触した時の衝撃はリールフットピラーが変形することで分散、吸収されフレーム、スプールの変形を防止したいと考えたのです。
剛性のある材料にするのはなく、リールフットピラーがクラッシュすることで他のパーツを守る構成としたのです。
フットピラーは消耗品として考えてください。
最近フルーガーのメダリスト用リールフットを設計加工したのですが、これも衝撃吸収構造にしております。
他社のリールフットと比較して弱そうに見えますが実際に弱くしているのです。
この形状の裏に隠された本当の設計の意図をご理解いただければ、何を守りたいのかが見えてくると思います。
唯一の課題はこの構造を採用したことでどの程度の効果を期待できるかを検証できていないということです。
話は変わりますが、リールフットピラーの段差形状が左右で少し形状が異なっているのが判るでしょうか?
それにも意味があります。
加工には、ばらつきが発生しますので加工の際の基準がどちらにあるのかを目視確認できるようにほんの少し形状を変えているのです。
形状には意味があり、それが判ると製作者の意図を知ることができ、愛着も増すと思います。
以上、形状の裏に隠されたリールフット構造のお話でした。