Retro Reelのクリック機構についてお話いたします。
以前から何度もお話しているように、”Buddy” リールはクリック機構を搭載するためのネジ等をフェイスプレートに露出させずに、シンプルなデザインにすることをこのリールのコンセプトとしております。
そのために、クリック機構をどうやって搭載するかが、開発時の大きな課題でした。
ラチェットクリックはシンプルな構造なのですが、クリック音が大きく、あまり自分の理想とするリールのイメージには合致しないため、クリック音が控えめで、デザインに影響しないことをテーマにして試行錯誤したことを思い出します。
クラッシックタイプの両軸リールで、レイズドピラータイプのリールを作りたかったので、フェイスプレートはエボナイトを使用することは必須事項だったのですが、エボナイトをしようすることによる弊害もあるのです。
このエボナイトはゴム系の合成樹脂で、黒檀(ebony)のようだったことからeboniteと言う名称になったそうで、磨くと光沢がある材料なのですが、リールとして使用する薄い円盤状に加工するときは、旋盤でチャックするだけで、歪んで精度良く加工することが難しい材料でもあるのです。
エボナイトの中心に穴加工し、この部分が軸受部になるのですが、旋盤でチャックする際に歪んだ状態でチャックしてセンター穴を開けてしまうとセンター位置がずれてしまいます。
歪み量はわずかでも両側に形成した穴位置がずれるとスムーズな回転ができなくなります。
エボナイトの厚みは出来るだけ厚いほうが良いのですが、フレームの厚みとエボナイトの厚さの差分内にクリック機構を形成させる必要があるため、3mm程度の厚みしか確保することができないため、エボナイト加工には神経を使います。
加工性はすこぶるよく、快削性なのですが前述したようにエボナイトはゴム系の合成樹脂なのです。
加工時の匂いは硫黄のような何とも表現しにくい悪臭なのです。
悪臭と言えば私の作製するリールの使用している鹿角のノブの加工時も悪臭がします。 ある意味悪臭との戦いでもあるのです(笑)
少し話がそれてしまいましたが、限られた空間内にクリック機構を形成し、なおかつクリック機構を固定するネジ等がフェイスプレートに露出しないで、クリック音が大きくないという条件での回答がこれです。
非常にシンプルな形状で、厚さ3mm程度のドーナツ状のプレートにの内側にプランジャを配置し、ドーナツ状のプレート表面には位置決め用のピンを形成した構成のものです。
これがクリック機構になるのです。
このピンがフェイスプレートの内側に形成された位置決め穴に収まることによって回転防止の役割をします。
プランジャはギヤの外周に先端のボールが接触することにより、クリック機構として動作します。
スプール部分に取り付けられたギヤ部に被せるとイメージしやすいと思います。
ドーナツ状のクリック機構はフェイスプレートによって回転を規制されるため、スプールとギヤがこのクリック機構内で回転する際にプランジャがギアに接触することでクリックとして作用します。
ギヤの回転に伴い、プランジャの先端部のボールが移動する構成なので、クリック音は比較的小さく、また回転時の感触もラチェットクリックとは異なり、滑らかな印象です。
このクリック機構には大きな特徴が2つあります。
1つは位置決めピンです。
フェイスプレート側に設けた位置決め穴を高精度に加工し、位置決めすることも可能ですが、エボナイトは前述したように加工時の歪等により加工精度を高精度に確保することが難しい材料でもあり、位置決めピンと位置決め穴を複数個所形成してきっちりと規制するとクリックの強弱、すなわち加工精度バラツキによりギアに対するプランジャの接触状態が回転位置によりばらつく場合が出てきます。
そのため、位置決めピンを1か所にし、位置決め穴を少し大きな径で加工することによってクリック機構の回転は規制されるものの位置は、穴径とピンとの遊び分だけ自由度がある状態となり、ギアの回転に対して、クリック機構が一番居心地のいい場所に移動することができます。
クリック機構がギアに対してセルフアライメントできることで、安定したクリックを実現しています。
2つ目は、ユニット化されたクリック機構です。このクリック機構はフェイスプレートの位置決め穴に位置決めピンが収まることで回転を規制しているだけなので指で摘まめば簡単に取り外すことが可能です。
と言うことは、部品交換がクリック機構のユニット交換で簡単に交換可能と言うことになるのです。
例えば、もう少しクリック機構がきつめの方が良いとか軽いほうがいいと言った場合においてもこのクリック機構のパーツのみを交換することにより簡単に対応できるのです。
写真には位置決めピンの対面に座グリ穴が形成されています。
この部分にはマグネットを埋め、フェイスプレートの位置決め穴の反対部にも同様にマグネットを埋め込んで、分解時等に磁力によりクリック機構が脱落するのを防止しています。
展示会の時にはこのクリック機構を説明するためのスケルトンモデルを展示するようにしておりました。
異常にシンプルな構成でクリック機構を実現できたのではないかと考えております。
これも開発当初に、明確なデザイン目標があったことが良かったことが良かったのだと思います。
誰かのアイデアを流用するのではなく、1から開発することの大変さと楽しさを味わったような気がしています。
皆さんも目にする機会がありましたら是非ハンドルを回した時の、他のリールとは一味違う感触を味わっていただければ幸いです。